P.ファイアアーベント2007『知についての三つの対話』ちくま学芸文庫

 既にこの話題に触れているが、忘れないうちにファイアアーベントによるストーンヘンジの研究者の話についてここに書き留めておく。
対象は、前回のAとB(=ファイアアーベント)の対話、Aが"あの低能ども"と連呼するBに辟易し、一旦降参した直後にはじまる。


A でも、君が言った他の話題については、科学者の発言資格の範囲を逸脱しちゃあいないよ。彼らの適性のまさに中心的話題じゃないか。例えば、核反応炉にせよ、医学にせよ、ね。こうした問題が物理学者や医学者や生物学者の専門的適性の中心にあるってことは判るだろう。君のやっていることはね、こうした科学者の専門領域の外での発言不適格性を言い立てておいて、そこから、本当の専門領域での彼らの不適格性まで引き出そうとするんだ。馬鹿げた論理立てだよ。
B いいだろう。じゃあもっと例を出そう。
A いくらやっても、こんなやり方では埒があかないよ。
B 「埒があかせる」というのが、科学がすべての王様だということを明らかにする、って意味で言っているのなら、まさに僕もそう思うよ。
(前掲書 pp.140-141 ll.16-18, ll.1-7)
と、くそじじ〜は柄にもなくキザッたらしいことを言いながら、ここから新たな例示を行なう。それはストーンヘンジを発見した研究者の見解で、これらの在り方が当時の人々が天文学的な素養を有していて、これらは「重要な天文上の出来事を予言するための一種の天文観測台と計算機構だった」というものである。


A 天文上の出来事って例えば?
B 例えば、月食とか。この発見は、数人の学者の手になるもので、学者の他の人々はこれを認めなかった・・
A それなりの理由があったからだろう。
B それなりの理由は彼らにあった、しかし、一体どんな種類の理由だったのか。見てごらん、『天文学史研究』誌を持ってきたから、ここにアトキンソン教授の記事が載っている。彼は巨石文化の最高の専門家の一人だ。この教養ある紳士の言われることを読んでごらん。
A (読んでみる)「ここで、私は、残念ながら、どちらかと言えば否定的になる。われわれの多くは、私自身のように、人文系の学問の業績しかなく、必要な計算能力を欠いていることだけが原因であるとすれば・・」
【引用者略】
A 「考古学者でない人は、考古学者にとってトムの仕事の持つ意味が、どれほど困ったものであるか、判ってほしい・・」トムって誰だ。
B 幾何学、度量学あるいは月の軌道の章動についての知識まで持っていた天文学の複雑な複合体である巨石時代の学問を掘り起こした人々の一人さ。
A 章動って何だい?
(前掲書 pp.141-143 ll.13-17, ll.1-17, ll.1-9)
 ここでBによる章動の説明をはさんで、Aは続きを読まされる。poliは続くまさにこの部分が気になった。

A (今の説明に十分納得しない面持ちで)「・・判ってほしい。というのも、トムの仕事の持ついろいろな意味合いは、今世紀全体を通じてずっと通用してきたヨーロッパの先史時代についてのわれわれの概念モデルに馴染まないものだからである・・」
B 話は非常にはっきりしている。アトキンソンは、「困った」のだ。自分にうまく理解するための装置が欠けているような理論は、じぶんには馴染まないものだった。だが、さらにその次、ここにもっと面白い文章がくる。
A 「それゆえ、多くの先史時代研究者がトムの仕事を無視したのも、驚くべきことではない。何故なら、彼らにはそれが理解できなかったからである。あるいはまだ彼らがそれを拒否したことも不思議ではない。何故なら、反対する方がずっと心に叶った行為だったからだ」。
B これで君も事の黒白がはっきりしただろう。新しい考え方は、それを拒否することの方が心に叶うのだ。これが、教養ある紳士の、最も発言資格のある領域の真只中で起こっていることなんだよ。
(前掲書 pp.143-144 ll.15-17, ll.1-10 太字強調は引用者)
この直後、
「これでも信じるかぁ〜これでも信じるかぁ〜これでもぉぉぉ〜グヘヘ〜」
と、またAをギューギュー締め付ける。どんだけ自称科学者が憎いんだよ!!どこまでもその例示を交えた訴え方がえげつない。繰り返しが多い。ガタローぶりも甚だしい。いや、そりゃ気のせい



ま。それはそれとして。
 Bことファイアアーベントがなぜ、Aにだらだら音読させることを強いているのかといえば、これが彼自身の中心課題を構成する要素である発見のパターンの検証への注視があるからであろう。そして彼だけにとどまらずラカトシュにしてもポパーにしてもこの問題意識を共有していたといえる。
 この下りにきて、丁度、某店頭で目にしたものを思い出し、取って返して入手し読むことにした。それが。